「マネジー!!こっちもテーピングお願いできる?」



遠くから呼ぶ声が聞こえた。



「あ、はーい!少し待ってて下さーい!」



私は顔だけそっちに向けて答えた。
「出来ましたよ」と声をかけ、私は呼ばれた方へ救急箱を持って走っていく。





少し前の私だったら、こんなに誰かに頼りにされることなんてなかったし、想像も出来なかった。




彼に出会うまでは―――

















中1の春。
私はクラスになかなか馴染めないでいた。
引っ込み思案な性格もあって、クラスメイトに話しかけることも出来ず、
友達も出来なくて、気がついたら1人になっていた。
そこをクラスのいじめっ子に狙われた。
最初はごく一部の女子だちに靴を隠されたり、教科書に落書きされたりというごく地味ないじめだった。
だけど、それを見ていた他のクラスメイトたちも面白がり始めて、だんだんといじめはエスカレートしていった。





最初は私も我慢していた。
きっともう少ししたらみんな飽きるからと考えていた。
でもその考えが甘かった。飽きるどころか酷くなる一方だったから。
相談する相手もいなかった私は1人で考え込んで、考え込んで、



動けなくなってしまった。






すっかり疲れてしまって、私は何も考えずに屋上に通じる階段をゆっくりと登っていた。
そんな時だった。




「どこに行くんだい?」



ふっと現実に引き戻された私はゆっくりと後ろを振り返った。
そこには赤い髪をしたキレイな顔立ちをした男の子が立っていた。






「その上には屋上しかないよ?」



彼は私にゆっくり近づきながら声をかけてきた。






「・・・知ってる。屋上に、用があるから」

「ふ〜ん。死ぬつもり?」



ビクッと自分の肩が跳ねるのを感じた。
それはきっと考えないようにしていたことを言い当てられたから。
図星だったから。
私は死ぬためにこの階段を登っていたんだ。







「・・・あなたには、関係ない、ことだから」



私は彼から目をそらして、絞り出すように答えた。
彼は私の目の前でピタッと止まる。






「俺には関係ある」






私は目線だけを彼に合わせた。
彼はただ静かに私を見下ろしていた。







「ふ〜ん。近くで見るほど面白いね、君」

「意味が、分からないん、ですけど」



今のどの状況を見ると「面白い」という単語が出てくるのか私には理解不能だった。







「ねぇ、バスケ部のマネジをやる気はないかい?」



まじまじと私を見ていた彼の口から出た言葉はやはり理解不能だった。







「あの、ですから、言っている意味が・・・」

「そのままの意味だよ。君にバスケ部のマネジをして欲しい。
君には才能がある。俺はそれに興味がある。
だから君の才能を間近で見て、活かしたいんだよ。つまり君が必要ってことだ。分かるかい?」



あまりに突拍子もないことを急に言われた私は少しパニックになっていた。
彼の言葉を理解しようと努力するけど、頭が上手く回らない。








「難しく考えなくていいよ。簡単に言うと、今君に死なれると困るってことだ」



私はパッと顔を上げた。
彼の目線と私の目線がぶつかる。








「私に、死なれると、困る?あなたが?」

「ああ、困る。俺は君の才能が欲しい。君が必要だ。だから、死なないで欲しい」



スッと私の目の前に手が差し出される。
一瞬、手に目線を落として、私はもう一度彼を見上げた。
私と目が合うと彼はふわっと笑った。






「俺は赤司征十郎。君は?」





声が震える。目頭が熱くなって、視界がだんだんぼやける。
久しぶりに私に向けられた笑顔が嬉しくて、気がつくと私は赤司君の手を強く握っていた。








私は今まで溜めていたモノを全てはき出すように泣きじゃくった。
泣いて、泣いて、泣いて。
赤司君は私が泣き止むまでずっと手を握って、傍にいてくれた。

私が落ち着いたのを確認すると、彼は私を引っ張って体育館に向かった。
体育館に入るとすぐに1軍の選手に私を紹介して、入部届もその場で書いて出した。






そして、その日を境に私の世界は一変した。






今まで毎日のように繰り返されていたいじめがピタッと止まったのだ。
私に話しかけることもしなかったクラスメイト達が話しかけてくれるようになった。
笑顔を、見せてくれるようになった。
私の名前を、呼んでくれるようになった。





バスケ部でもキセキの世代と呼ばれる天才たちと仲良くなることが出来た。
他の部員たちとも笑顔で会話できるぐらいには親しくなれた。






今まで見ることの出来なかった世界が今、私の目の前に広がっていた。
モノクロの世界に、彩りが生まれた。
そのきっかけを作ってくれたのは紛れもなく―――















頭上から私を呼ぶ声がする。
顔を上に向けると優しい笑顔が見えた。







「何ですか?赤司君」

「それが終わったら、桃井と一緒に今日のデータをまとめてくれるかい?」

「分かりました」



笑顔で頷くと、私は作業を再開した。
後ろから人の動く気配がなく、不思議に思った私は振り返る。







「?どうしたんですか?赤司君」

「・・・。今、楽しいかい?」



赤司君は少し不安そうな顔をして私に尋ねる。
あまり見ない彼の表情に私も一瞬不安を感じた。
だけど、それは本当に一瞬で、すぐにその不安は消え去っていた。







「はい!とっても楽しいです。赤司君がいますから」



私が力強く答えると、赤司君はふわっと笑って私の頭を優しくなでてくれた。







赤司君がいるから、今私はここにいられる。
あの時、赤司君が私に声をかけて、手を差し伸べてくれたから、私はここにいる。
ここに居場所を見つけられた。
赤司君がいたから、今の私がここにいる。








そう、君が―――









私の世界の








−−−−−アトガキ−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

最近、赤司がキテる。好きすぎる。
好きすぎて赤司中心で世界が回れば良いのにと思って書いた作品。

この話の中の赤司は良い奴そうに見えるけど、
実は赤司が全てで、赤司のためなら何でもする、言うことを聞くっていう子が欲しくて、
何もかも赤司が仕組んだことだったらいいなぁ〜とか考えたり。
赤司ならそれくらいやりそうなイメージ。

それでは、ココまで読んでいただきありがとうございました。


12.06.09







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