透明なレンズを覗いたら


あなたの心も覗けますか?














検査











放課後の教室。

夕日差し込むこの場所に人影が2つ。

日中の賑やかさが嘘のように静かで、ノートに鉛筆の走る音がやけに大きく聞こえる。

ふと私は手を止めて、目の前で作業している人物の顔を見つめた。








「何見てんだよ」







私の視線に気づいたらしく、日向は目線をノートに落としたまま聞いてくる。







「日向ってさ、目、本当に悪いの?」


「・・・は?」







前から気になっていたことを聞いてみた。

日向は顔を上げると、案の定、意味が分からないという表情をされる。

私は真剣な表情で続ける。










「ほら、いるじゃん?『眼鏡男子はカッコイイ』『モテる』みたいなヤツ。

日向のも実は度が入ってなくて、伊達だったりするのかな〜と」







私の発言を聞いた日向はため息をつく。






「あのな・・・なんでわざわざ『カッコイイから』とか『モテるから』みたいな理由で

バスケに支障が出るような眼鏡をかけてなきゃいけねぇんだよ。アホだろ」


「・・・それもそうか」








確かにそうだ。

眼鏡はバスケだけじゃなくて、スポーツやるには邪魔だ。

それなのに伊達眼鏡かけてるヤツがいたら、ただのアホだよね。

私が納得していると日向はまたため息をつく。

・・・絶対に日向は幸せ、いっぱい逃がしていそう。

色々と苦労の絶えなさそうな日向にちょっと同情。










再び作業を始めた日向だったけど、私はまだ手が止まっていた。

気になることはもう1つある。

本当に目が悪いなら―――








「ねぇ、どんだけ悪いの?視力」







確かめてみたい。

私は目が良いから結構遠くまでハッキリと見える。

でも悪い人は本当に見えないのか、

どこからだと私が見える景色と同じものが見えるのか気になっていた。







私に視線を移した日向はすっかり呆れた表情をしていた。

少し不機嫌そうにも見える。








「お前なぁ、俺は早く終わらして帰りたいんだよ。だから、さっさと・・・て、オイ!」







私は日向の言葉を右から左に聞き流す。

「確かめていい?」と一応聞くが許可をもらおうなんて考えていない。

日向の返事を待たずに私は眼鏡をスッと取り上げる。

そして、そのまま自分にかけてみる。










「・・・前が見えない」


「・・・当たり前だよ」









相当目が悪いようで私がかけると視界がぼやけて何も見えなくなる。

眼鏡を前後に動かして、昔流行ったギャグをしてみる。

けど、日向は笑ってくれない。むしろ、さっき以上に呆れている。








「俺がどんだけ目が悪いか分かっただろ?つーことで、早く返せ」







ほれほれと日向が私に向けて手を動かす。

私は返すどころか眼鏡をしっかりと握って、少し体を乗り出す。








「ねぇ、ここだとさ、私の顔、認識できる?」







机1つ分ほどの距離を私と日向の間に作る。

私なら余裕で認識できる距離。

だからこそ、日向の答えに興味津々だった。









「そりゃあ・・・」


「ハッキリ見える?!」


「・・・ぼんやりとな」


「じゃあ、このぐらいは?」










私は日向の反応を見ながら少しずつ距離を縮めていく。

少しずつ、

少しずつ・・・・・・。

10cmほどの距離になった時、ふと日向が目線を逸らした。









「ちょっと目逸らさないでよ!で?これぐらいだとハッキリ見える?」







私は好奇心に満ちた目で日向を見つめる。

日向はチラッと私を見た後、今までで一番大きなため息をついた。

そして、私を真っ直ぐ見つめて、視線と視線がぶつかった瞬間、




私の息が止まった。




瞬間的に理解した私は勢いよく後ずさる。

危うく椅子から落ちそうになった。









「〜〜〜〜〜っ」









私が口元を抑えて真っ赤になっていると、同じく顔を真っ赤にした日向がいて。








があんまり可愛い顔近づけるからだっ。ダァホ!!」







大声でそう言い放つと日向は私の手から眼鏡を奪い、鞄を持って立ち上がる。

「だいたいまとまったから後は各自でな」と言い残して、さっさと教室を後にした。










オレンジ色に染まった教室に1人取り残される。

熱くなった頬を押さえながら、パニック状態の頭を必死に整理しようとしていた。

でも、まともに思考が働くわけもなく、ますます混乱するばかり。









「可愛い」って言われたのも、

キスされたのも、

気のせい。

きっと、気のせい。

そうやって、ずっと心の中で呟くので精一杯だった。













無意識に気づかないようにしていた想い。

あなたに触れて、気づいてしまった想い。

小さな恋が動き出す。

まるで坂を転がるビー玉のように

急激に速度を上げていった―――














−−−−−−−アトガキ−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

とある先輩を見て思いついたネタ。
あの人、本当に目悪いんですかね?という後輩との会話から出来たモノだったり。
でも、このネタ考えてる時にツイッターで全く同じネタが流れてきた時吹いてしまった。
「あ、被ってるwww」って思った。
気にせず作ったけど。

これより少し後のお話も書こうかな〜と検討中。
日向氏はいじりやすくて、大変書きやすかったです♪


それでは、ココまで読んでいただきありがとうございました。


12.06.13







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