好意を向けてくれる大勢より


たった1人のキミに必要とされたい

















ミだけに











「お、黄瀬!おはよー」


「はよーッス」







下駄箱でクラスメイトに会って挨拶をする。

いつもと変わらない朝。

いつもの光景。






俺は中靴を取りだそうとして靴箱を開ける。

すると、バサバサッと色とりどりの封筒が落ちる。

クラスメイトがその1つを取り上げる。






「『黄瀬涼太様』・・・ラブレターかファンレターか。

どっちにしてもこんなに女子から手紙もらえるとか羨ましーな、お前」






ほれ、と手渡される。

どもッス、と言いつつ受け取る。






いつもと変わらない朝。

いつもの光景。

いつもと同じ会話。







手渡された封筒に目線を落とす。

可愛い文字で俺の名前が書いてある。

クラスメイトに気づかれないように小さくため息をつく。






「俺が欲しいのは、こういうのじゃないんスけど・・・」





今にも消え入りそうな声で呟く。

クラスメイトが不思議そうに俺の顔をのぞき込んだ。






「ん?なんか言ったか?」


「何でもないッスよ」






俺はすぐに笑顔を作る。

そして、床に散らばった手紙を拾い集めて鞄に詰め込んだ。




























「10分休憩入れるぞー!」






体育館に主将の声が響く。

俺はキョロキョロと辺りを見回してお目当ての人物を捜す。






「何、キョロキョロしてんのよ」


「うわぁ!」






急に後ろから声をかけられて俺はビクッと跳ね上がった。





っち!ビックリするじゃないッスか!」


「失礼ね。人をお化けみたいに」






そう言いながらも、っちは楽しそうに微笑んだ。

まるでドッキリ大成功とでもいうように。






「はい。水分補給しっかりね」


「どもッス」






っちは俺にボトルを手渡す。

俺が受け取るとっちはすぐに持っていた板に目を落とす。

何か考え込むような仕草をしたかと思うと、スッと俺に目線を合わせた。






「黄瀬、今日調子悪い?」


「え?何でッスか?」


「シュート率が悪い。動きにもいつものキレがないし。具合悪いなら休む?あたしから赤司に言っておくけど」






確かに今日は朝のことが頭から離れなくて集中出来ていなかった。

けど、的確にそのことを見抜かれて俺は内心焦った。

いつも思うけど、本当によく見ている。

俺だけじゃなく、他のメンバーのことも。







「大丈夫ッスよ!これからッスよ!」


「そう?じゃあ、イイけど。キツくなったら言ってね。今ぶっ倒れられると大変だから」






っちは「明後日試合だし」と付け加える。

俺の心配をしてくれてるとちょっと嬉しくなったのに、一気にどん底に落とされた。

そうッスよね・・・。試合第一ッスよね・・・。

その時、俺はピンと良いことを思いついた。






っち、今、彼氏いるッスか?」


「は?何、いきなり」





っちは目を丸くして俺を見上げる。

気にせずに俺は続けた。





「だから、彼氏ッスよ!今、いるんスか?」


「いないけど・・・」


「じゃあ、好きな人は?!」


「・・・いないけど・・・何よ」


「明後日の試合、誰よりも一番多く得点取れたら俺と付き合って欲しいッス!」


「・・・・・・は?」







っちは不思議な生き物でも見たかのような目で俺を見ている。

自分でも突拍子もないことを言っているのは分かっている。

でも、こういうことでもしないとっちは絶対に振り向いてくれないと思った。






それに無自覚かもしれないけどっちは人気がある。

今、好きな人がいなくても、

今、付き合っている人がいなくても、

いつっちに好きな人ができてもおかしくないし、

きっとっちに告白されたら大抵の男はOKすると思う。

そうなる前にどうしても手を打っておきたかった。






っちは「う〜ん」と小さく唸って考え込む。

チラッと俺を見上げる。

上目遣いに一瞬ドキッとする。






「いいよ」


「マジっすか?!」


「もし誰よりも一番多く得点取れたら、その時もう一回考える。だから、とりあえず頑張ってみてよ」






っちは満面の笑みを俺に向けた。

俺は俄然やる気が出てきて、その後の練習はいつも以上に集中できた気がした。























そして、練習試合当日。

試合には勝った。

けど、結局得点王はいつものように青峰っちで。

5人中4位。下から数えた方が明らかに早かった。






「はぁ〜・・・」





ため息が出る。

本当にあの5人は天才だと思った。

1人抜くので精一杯だ。

落ち込んでいると後ろから背中をポンとされた。





「き〜せ!お疲れ様!」






振り向くとそこには笑顔のっちがいた。

俺は力なく笑ってみせる。






「全然ダメだったッス。やっぱあの5人はスゴイっすね」


「そう?いつもよりシュート率良かったし、得点も前に比べたら格段に上がってるし」






横に並んで歩き始めたっちを見下ろす。

試合後はいつも嬉しそうにしているが、今日はいつにも増して嬉しそうだ。

多分、良いデータが取れたんだろう。

桃っちと一緒で本当にデータ好きだな、としみじみ思った。







っち、この前言ったことなしにしてもいいッスか?」






俺は空を見ながら呟くように言った。

かっこ悪いこと言ってるなと思った。

でも、無かったことにしてもらった方が前に進めそうな気がした。

なかなか返事が返ってこないのを不思議に思って俺はチラッとっちを見る。

すると、俺をジーッと見ていたっちの目線とぶつかる。

っちは俺と目が合うとニコッと笑った。






「次!頑張ればイイじゃん。期待してんだから、少しは根性見せなさいよね!」






今度は俺の背中を思いっきり平手で叩く。

予想外の力に思わず声が出そうになったのを必死でこらえた。

っちは笑顔のまま、前方を歩く桃っちのところへ駆けていく。

俺はその姿を見て、少し元気を取り戻しつつあった。







「次頑張れ・・・か。ちょっとは期待してもいいんスかね」






俺は空を見上げて呟いた。

でも、さっきとは全然違う気分だった。

俺は自然と微笑んでいた。

静かに目を閉じる。

ふわっと心地よい風が俺の頬を撫でていった。








−−−−−−−アトガキ−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

黄瀬はモテすぎです。少し自重して下さい。
でも、モテる人って実は彼氏とか彼女とかいないよね・・・。
という昔の記憶を頼りに作ったモノ。
理想が高いんだか、何なんだか・・・。

今回も黄瀬さんは残念です。
というか、あたしの書く黄瀬さんは基本残念です(笑)
だからこそ頑張って欲しいんだけどね。
なら、ハッピーエンドにしてやれよというツッコミはなしの方向で。

作中に出てくる「5人中4位」。
1位〜5位まで一応あたしの中では順位決まってます。
予想してみて下さい!!!!
当たった人には素敵な景品があったり、なかったり(笑)


それでは、ココまで読んでいただきありがとうございました。


12.06.24





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