「ったく、リコのやつ、どこにいんだよ・・・」
俺はキョロキョロしながら廊下を歩いていた。
休み時間、話しておきたいことがあったため、
リコの席に向かおうとしたが、すでに席に姿はなかった。
別に後ででも良かったのだが、この休み時間が終われば今日最後の授業。
それが終われば、部活の時間になる。
その前に話しておいた方が良いと思い、俺は少し面倒に思いながらもリコを探していた。
教室のある階でリコの姿を見つけることの出来なかった俺は階段を下りた。
するとすぐにリコの姿が見える。
「んだよ、そこにいたのか。おい、リ・・・」
俺は声をかけようとしたが、誰かと話しているのを見て口をつぐんだ。
見たことがない。ということは、1年生か。
そう思いながら、とりあえず階段を下りきる。
すると向こうが俺に気づいた。
「あ、日向君!後でと思ってけど、ちょうど良かったわ!」
「何がだよ」
リコは俺に笑顔で来い来いと手招きをする。
少し面倒くさそうに近づく。
リコの笑顔は嫌な予感しかしない。
「紹介するわね。あたしの幼なじみの。
今日からバスケ部のマネジやってもらうことにしたから」
「したからって・・・もう決定事項かよ・・・」
「まぁ、別に構わねぇけど」と俺は紹介されたヤツ、を見る。
は俺と目があった瞬間、サッとリコの後ろに隠れる。
「あ〜・・・この子、人見知りなのよ。気にしないで。
まずはみんなに慣れることからになっちゃうかもしれないけど、まぁ、仲良くしてあげて!」
のその姿を見たリコが苦笑混じりに言う。
「大丈夫かよ」と少し心配になり、チラッとリコの後ろに隠れたを見ると、
顔だけを少し覗かせていた。
そして、俺と目が合うとペコッと軽くお辞儀をする。
「まぁ、お前が決めたんならいいんじゃねぇの?どうせ俺が何言っても無駄だろ?」
俺は頭を掻きながら言う。
リコは「その通り」という感じの笑顔で見てくる。
実際、リコがカントク兼マネージャーの役目を務めていて、負担をかけているのは確かだ。
それが少しでも軽減するならいいかと俺は考えた。
と言っても、リコの思いつきはいつも突拍子で相談も何もない。
全ての事が決定してから、事後報告という形でみんなに伝えられる。
今回もそのパターン。
「またか」と思い、小さくため息をつく。
が、リコが決めたことは何があっても覆らないので腹をくくるしかない。
いささか、不安は残るが。
「日向順平。一応、バスケ部の主将だ。よろしく」
「・・・・・・、です。よろしく、お願いします」
俺が自己紹介をすると、も小さい声ではあったが返してくれた。
喋らないかと思ったが、案外あっさりと声が聞けて、俺は少しビックリしていた。
リコはがちゃんと自己紹介出来たことに安堵している表情だった。
が入部して、1週間が経った。
様子は相変わらず、リコの後ろに隠れていることが多い。
ただ、マネジの仕事はしっかりしてくれているから正直助かっている。
あとは人見知りが早く克服出来ればいいんだが。
「あの・・・」
そんなことを考えていると突然後ろから声をかけられた。
「うわぁ!」
俺はビックリして後ろに飛び退いた。
声の主はだった。
「、お前気配消して歩くな!ビックリするのは黒子だけで十分だ!」
「すみません」
俺が焦って言うと、は無表情で謝る。
息を吐き、少し気持ちを落ち着かせてから口を開く。
「で、どうした?何か用か?」
俺が聞くと少しの間を開けてが口を開く。
「日向先輩、猫、好きですよね?」
「?まぁ、好きだけど・・・」
この場に不釣り合いな質問をされて、俺は疑問に思った。
何がしたいんだ?と不思議に思っていると、は俺の目の前に携帯を突き出した。
のぞき込むと猫の写真。
「友達の家の猫です。好きだって聞いたので、写メ、撮ったんです」
チラッとを見ると目を泳がせながら写メについて説明してくれる。
初めは何が言いたいのかよく分からなかった。
だが、を紹介してもらった日、教室に戻る途中でリコに言われた言葉を思い出す。
「はさ、すっごい人見知りでなかなか友達とか作れないのよ。
んで、何かのきっかけになればと思ってバスケ部に誘ったわけ。
少しでも他人と上手くコミュニケーション取れるようになってくれればいいんだけどね〜」
もしかしてこれは、なりに俺とコミュニケーションを取ろうとしているんだろうか?
俺が猫を好きだっていうのを聞いたから、わざわざ友達の家の猫を撮ってきたのか?
なんて遠回りなコミュニケーションなんだろうと俺は思った。
けど、その姿を想像するとちょっと可愛く思えて、微笑ましくなった。
「可愛いな、その猫。それ欲しいから、部活終わったらアドレス教えろよ」
俺が少しはにかみながら笑うと、は一瞬驚いたような表情をした。
きっとこう返されるとは予想していなかったのだろう。
でも、その表情は一瞬で消え去り、次の瞬間には嬉しそうに微笑んでいた。
思わずドキッとしてしまった。
いつもは無表情か困ったような表情しかしていなかった。
だから、こういう風に笑えるなんて思ってもいなかった。
は「じゃあ、練習、頑張って下さい」と言い残し、リコの元に走っていく。
俺はその後ろ姿をボーッと眺めていた。
早くみんなの中に溶け込めればいいと思う反面、
このまま俺にだけ懐けばいいのにと思っている部分が心のどこかにあって。
そんなことを思っている自分に少しビックリすると同時に、ちょっと顔が熱くなる。
「いかん、いかん」と頭を振るが、脳裏にはあの表情が焼き付いていて、
なかなか消えてくれそうにない。
俺は頭の中で音が鳴った気がした。
聞き逃しそうなほど小さな音ではあったが、でもしっかりと響いていた。
それはきっと―――
恋に落ちる音がした
(一瞬で落ちるもんなんだな) (何がですか?) (うわぁ!だから気配消すな!)
−−−−−−−アトガキ−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−
ハピバな後輩に向けて、せめてものお祝いに・・・と書いたモノ。
結構前からネタを上げていた作品の1つです。
というか、ある人物を観察していて思いついたネタだったり、そうじゃなかったり(笑)
実はモデルがいたり、いなかったり・・・(笑)
真相は闇の中に葬っておきます。
日向先輩、リコのことは本編で「カントク」って呼んでますけど、
今回はリコ呼びの方が進めやすかったので・・・ちょっと変えてます。
すんません。
自分も案外人見知りな部分があって、
だからこそ見知り発揮してる子が困ってるのを見ると手助けしたくなる。
何かきっかけをあげたくなる。
そんな思いがあって出来上がった作品。
それでは、ココまで読んでいただきありがとうございました。
12.07.07
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